大槌町の山林火災、鎮圧めど立たず延焼続くNASA FIRMSで火災マップを見る

岩手県大槌町の山林火災をNASA FIRMSで捉えた衛星火災マップ この違いわかる?
NASA FIRMSによる岩手県大槌町の火災検知マップ。赤い点が火災ホットスポットを示している。(2025年4月22日)

岩手県大槌町の小鎚地区と吉里吉里地区で山林火災が同時発生し、夜を徹しても延焼が続いている。

最大でおよそ 1,200世帯・2,500人超 に避難指示が発令された。

NASA FIRMSによる最新の火災状況は以下のリンクから確認できます。
火災マップを見る


大槌町・小鎚地区

4月22日 午後2時ごろ、大槌町役場から北西に約8kmの山あいにある小鎚・徳並地区で「のり面が燃えている」と住民から119番通報が入った。

→ 焼失面積はおよそ 15ヘクタール(東京ドーム約3個分)。
→ 住宅1棟が全焼、別の住宅1棟が半焼を含む建物 7棟 が焼損。
→ 消防・県防災ヘリが地上と上空の両方から消火活動にあたり、県は 自衛隊に災害派遣を要請

「20mのスギが一気に炎に包まれる。消防人生で最も焦った瞬間だった」

消火活動にあたった消防隊員の証言

大槌町・吉里吉里地区

ほぼ同時刻、吉里吉里トンネル付近でも出火が確認された。

→ 焼失面積はおよそ 140ヘクタール(東京ドーム約30個分に相当する規模)。
→ 住宅街に迫る延焼が続き、高台から見上げると白い煙が上空に立ちのぼり続けた。
→ 避難した60代女性が避難所(城山公園体育館)で転倒し、あご付近に切り傷を負った。

「予断を許さない状況が続いている。引き続き全力で消火にあたる」

岩手県危機管理部

なぜここまで広がったのか──風炎(フェーン)現象

今回の火災が異例の規模に達した背景には、気象条件の重なりがある。気象予報士・小杉浩史氏(ウェザーマップ)は「風炎現象(フェーン現象)が一因」と指摘する。

4月22日、日本付近は南に高気圧・北に低気圧という気圧配置となり、南西からの強風が北関東・中部地方の山々を吹き越えて東北側に吹き降りた。この断熱圧縮によって大槌町周辺の湿度が急激に低下した。

  • 釜石アメダスの最小湿度:9%(記録的な乾燥)
  • 仙台でも9%:21年ぶりの一桁台
  • 宮古でも10%:2011年以来の低さ

「フェーン(Föhn)」はもともとアルプス山脈を吹き降りる乾燥した暖風を指す言葉で、日本語では「風炎」と当て字される。字義通り、炎を呼ぶ風だ。湿度9%という数値は砂漠に近い乾燥状態であり、そこに強い南西風が重なれば、ひとたび火花が散れば瞬く間に燃え広がる。

なお、どれほど空気が乾燥していても木が自然発火することはない。出火原因は現在も調査中だが、林野火災の大半は人の火の不始末が起点となる。「対岸の火事」と思わず、乾燥期の火の取り扱いには細心の注意が必要だ。

消火を助ける「恵みの雨」が東北北部に届く見込みは、4月27日(月)〜29日(水)の低気圧接近まで待たなければならないと予報されており、それまでは消防隊員たちの人力に頼らざるを得ない状況が続いた。


NASA FIRMSとは何か

今回の山火事でも、地図ファンや防災関係者の間で注目を集めたツールがある。それが NASA FIRMS(Fire Information for Resource Management System:資源管理のための火災情報システム)だ。

NASAが地球科学データシステム(ESDS)の一環として無償提供するウェブマッピングプラットフォームで、地図上に世界中の火災現場をほぼリアルタイムでオーバーレイ表示できる。

もともとは2007年にNASAの資金提供のもとメリーランド大学で開発され、2010〜2012年には国連食糧農業機関(FAO)によって運用された。その後NASAが引き継ぎ、現在は世界中の誰でも無料で閲覧・データダウンロードが可能なサービスとなっている。

ロシアのウクライナ侵攻やティグレ紛争など、武力紛争による火災の検出・報告にも活用されるなど、いまや防災・安全保障の両面で重要なインフラとなっている。


衛星が捉えた「熱の点」

FIRMSのデータを支えているのは、地球観測衛星に搭載された2種類のセンサーだ。

MODIS(中解像度イメージング分光放射計)

  • Terra および Aqua 衛星に搭載
  • 空間分解能:1km角
  • 広域の火災状況を大まかに把握するのに適している

VIIRS(可視赤外線イメージングスイートセンサー)

  • NASA/NOAA の Suomi NPP 衛星に搭載
  • 空間分解能:375m角(MODISの約7倍の精細さ)
  • 小規模な火災も検出でき、夜間性能も大幅に向上

衛星が上空を通過してからデータが処理・公開されるまで、約3時間以内というスピードで情報が更新される。地上の消防ヘリが視界不良や地形の複雑さで近づけない場所でも、宇宙からの熱センサーは正直に「熱の点」を捉え続ける。

地図上では、この熱の点が赤いドットとして表示される。大槌町の場合、小鎚と吉里吉里の2カ所に鮮明な赤点が灯り、延焼の進行をリアルタイムで追跡できた。世界地図を開けば、今この瞬間も地球上のどこかで何かが燃えていることが視覚的に分かる。自分が住む地域の火災状況を把握する「心の武器」として、FIRMSは市民レベルでも活用できるツールだ。


交通・学校への影響

火災の影響は日常生活にも広く及んだ。

  • 三陸鉄道:避難指示区域内の一部区間で運転を見合わせ
  • 町立の小中高校全て:4月23日(木)を臨時休校に
  • 避難所:赤浜・安渡・吉里吉里の一部地域住民が町内3カ所の避難所に身を寄せた

4月23日午前10時現在、74世帯・180人が避難所に避難中(最大時は1,200世帯・2,500人超)。


まとめ

岩手・大槌町の山火事は、記録的な乾燥(湿度9%)と強い南西風というフェーン現象が引き金となり、2カ所合計で155ヘクタール超を焼失する大規模災害となった。地上では消防・自衛隊・防災ヘリが懸命の消火活動を続け、宇宙ではNASA FIRMSの衛星センサーが熱を捉え続けた。

「対岸の火事」という言葉があるが、フェーン現象は日本全国どこでも起こりうる。空気が乾燥し風が強い日は、野焼きや火の取り扱いを避ける──その一人ひとりの意識が、次の大槌町を生まないための第一歩だ。


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