浜松市が令和8年度の地番図(筆ポリゴン)をオープンデータとして公開した。GeoJSON形式、座標系はEPSG:2450(JGD2000 平面直角第VIII系)。市域全体の筆界データが、誰でも無償でダウンロードできる。
これが何を変えるか。
森林管理でも不動産調査でも「この区画に、どの地番がかかっているか」は基本中の基本だ。だが従来、地番図は法務局の公図か自治体の内部データしか選択肢がなく、GIS上で空間結合するにはスキャン→デジタイズか、GISベンダーからの高額な購入が前提だった。
それが、ダウンロードしてPostGISに投入し、ST_Intersectsを1本書けば済む世界になった。
PMTilesでWeb地図に載せる
まずはWeb地図での可視化から。GeoJSON → FlatGeobuf → tippecanoe → PMTilesという変換パイプラインは、このブログでも何度か取り上げた定型作業だ。
# GeoJSON → FlatGeobuf
ogr2ogr -f FlatGeobuf chiban.fgb chiban.geojson
# FlatGeobuf → PMTiles(zoom 15-18)
tippecanoe -o chiban.pmtiles \
-l chiban -z18 -Z15 \
--drop-densest-as-needed \
chiban.fgb
生成した.pmtilesファイルをサーバーに置き、MapLibre GL JSで読み込む。minzoomを15程度に設定しておけば、広域表示では地番が出ず、拡大したときだけ筆界がオーバーレイ表示される。筆数が数万〜数十万の規模でも、PMTilesのタイル分割で描画負荷は問題にならない。
筆ポリゴンをクリックすれば、大字名・地番・面積がポップアップで出る。航空写真や森林計画図と重ねれば「この林班にどの筆がかかっているか」がその場でわかる。従来なら公図のコピーを取り寄せ、トレペで重ね合わせていた作業だ。それがブラウザだけで完結する。
PostGISで空間結合:任意のポリゴン × 地番
Web地図での目視確認は直感的だが、数十・数百の区画を扱うには限界がある。本丸はPostGISでの空間結合だ。
任意のポリゴン(森林の小班、農地の区画、開発区域など)と地番図ポリゴンをST_Intersectsで結合し、ST_IntersectionとST_Areaで交差面積を算出する。「区画Aは、地番X(被覆率72%)と地番Y(28%)で構成されている」という情報がSQL一発で出る。
SELECT
b.ooazak AS 大字,
b.chiban AS 地番,
ROUND(ST_Area(
ST_Intersection(
ST_Transform(a.geom, 2450), b.geom)
)::numeric, 2) AS 交差面積_m2,
ROUND((ST_Area(
ST_Intersection(
ST_Transform(a.geom, 2450), b.geom))
/ NULLIF(b.menseki, 0) * 100
)::numeric, 1) AS 被覆率
FROM target_polygon a
JOIN chiban_polygon b
ON ST_Intersects(
ST_Transform(a.geom, 2450), b.geom)
ORDER BY 交差面積_m2 DESC;
ここで注意点が1つ。対象データと地番図でSRIDが異なる場合、ST_Transformでどちらかを変換してから結合する必要がある。SRIDが不一致のままST_Intersectsを実行すると、PostGISはエラーを返す。同じ第VIII系でもJGD2011(EPSG:6676)とJGD2000(EPSG:2450)は別のSRIDとして扱われる。実務上の測位誤差は無視できるレベルだが、DB上では明示的な変換が必須だ。
結果をStreamlit等のダッシュボードに流せば、実務で使えるワークフローになる。サイドバーで対象区画を選ぶ → 該当する筆の一覧がテーブル表示される → 行を選択するとWeb地図にジャンプ、という一気通貫の動線だ。交差面積と被覆率が数値で出るので、「この筆は区画に74.9%含まれている」のような定量的な判断ができる。CSVエクスポートを付ければ、そのまま所有者調査の台帳にもなる。
MCPで「自然言語 → 空間クエリ」
ここにMCP(Model Context Protocol)サーバーを噛ませると、もう一段変わる。PostgreSQL/PostGISに接続するMCPサーバーを立てておけば、ClaudeやChatGPT等の生成AIから「この区画に含まれる地番を教えて」と聞くだけで、内部的にSQLが生成・実行され結果が返ってくる。
2026年6月、インフォマティクスが「空間情報MCPサーバー」の開発をプレスリリースした。自治体向けGIS「GC Navi」と生成AIを接続するプロダクトで、GISと生成AIをつなぐ流れへの注目は業界全体で高まっている。
ただ、PostGISとMCPサーバーの組み合わせなら、特別なパッケージを待たずともすでに手元で動く。postgres-mcp-server系のOSSを入れて、接続先DBを指定するだけだ。Claude DesktopやCline等のMCP対応クライアントからそのまま使える。商用ソリューションが提供するのは「整備されたUI」と「サポート」であって、空間クエリの実行基盤そのものはオープンソースで十分に成立する。
従来との比較
| 項目 | 従来のワークフロー | オープンデータ+PostGIS+MCP |
|---|---|---|
| 地番図の入手 | 法務局で公図取得、またはベンダーから購入 | 自治体サイトから無償DL |
| 空間結合 | デスクトップGISで手動、または外注 | SQL 1本(ST_Intersects) |
| 結果の確認 | GISソフト上で目視 | Web地図+ダッシュボード連携 |
| AIからのアクセス | 不可 | MCP経由で自然言語クエリ |
| コスト | データ購入費+ライセンス+外注費 | VPS月額1,000円程度 |
地番図オープン化の意味
地番図公開のインパクトは「GIS専門家の作業効率が上がる」だけにとどまらない。
これまで地番の特定は、専門家がデスクトップGISと紙の公図を突き合わせ、時間をかけて照合する仕事だった。それがPostGISのSQL一発+Web地図のクリック確認に変わる。さらにMCPを介せば、AIアシスタントに「この区域の地番構成を出して」と頼むだけで済む。専門的なSQLの知識がなくても、空間結合の結果にアクセスできるようになる。
もちろん、すべての自治体が地番図を公開しているわけではない。だが、登記所備付地図データの公開(法務省 G空間情報センター)が2023年に始まり、各自治体が独自に地番図をオープン化する動きも加速している。浜松市は令和6年度版に続いて令和8年度版も公開した。この流れは今後も広がるだろう。
自治体がデータを公開し、オープンソースの空間DBとAIプロトコルでつなぐ。高額なGISパッケージも、SIベンダーへの外注も要らない。この組み合わせが実用段階に入ったことを、浜松市の地番図公開が証明している。
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