熊はどこから現れるのか?──GISが可視化した出没の法則

GIS地図上に出現する熊のイラスト。出没傾向を示すヒートマップが描かれている。 この違いわかる?
地理情報システム(GIS)が示す熊の出没パターンを可視化したイメージ。

序章:クマが人里に現れる時代

近年、全国各地で熊(ツキノワグマ)の目撃情報が増加しています。特に秋田県を中心とした東北地方では、山林から人里近くに降りてくるケースが相次いで報告されており、農作物への被害や人身事故も後を絶ちません。このような背景の中、GIS(地理情報システム)を活用して熊の出現傾向を可視化・分析する取り組みが注目を集めています。

2025年1月から10月末までの秋田県の出没情報(通称「クマダス」)をもとに作成された出現マップを見ると、目撃地点(オレンジ色の点)には明確な規則性が確認されます。本稿では、その分布傾向をGISの視点から整理し、どのような地理的要因がクマの出現に影響しているのかを読み解き、今後の防除策や情報活用の可能性について考察します。

2025/1/1~10/31クマダスから(https://gkukan.net/htdocs/PMtiles/article14_map59.html#7.75/39.929/140.633)

山地と森林に沿った出現傾向

まず最も顕著な規則性は、熊の目撃が内陸の山地・森林帯に集中している点です。特に秋田県南部の大仙市、仙北市(角館)、北秋田市など、奥羽山脈沿いのブナ林を中心とした山地にクラスターが形成されています。緯度経度にして、例えば大仙市(緯度39.4577、経度140.4676)周辺は典型的な出現密集地域です。

PLATEAUと用途地域のオーバレイ(https://gkukan.net/htdocs/PMtiles/article14_map59.html#16.11/40.280582/140.563433/0/57)

クマは本来、広葉樹林を中心とする中山間部に生息しており、標高が高く、人間の生活圏からやや離れた山地が生息域の中心となっています。そのため、森林が連続するエリアでは目撃が継続的に発生しやすい傾向にあります。特にブナ林やミズナラなどの実をつける広葉樹が多い地域は、秋になると餌資源が不足しがちとなり、山地から人里への移動を誘発します。

このような環境条件を可視化することで、どの山地が“リスクゾーン”なのかを特定することができ、将来的にはクマ出没予測モデルの精度向上につながると期待されます。


河川・谷筋を移動ルートとする行動特性

次に注目されるのは、河川沿い・谷筋に沿って目撃情報が分布している点です。秋田県内では、雄物川水系や米代川水系に沿った地域で目撃点が連なっており、これらは**クマが移動の際に利用する「自然の道」**として機能していることを示しています。

谷筋は傾斜が緩やかで餌資源(水・植物)が豊富なため、山の斜面を降りてくる際の主要ルートとして選ばれやすい地形です。結果として、河川に隣接する農村部や集落周辺での出没リスクが高まっているのです。

特に春先(雪解け後)や秋口(食料確保のための移動)にこの傾向は強まり、道路や人の生活圏と交差する地点では事故の危険性も高まります。GISを使えば、谷筋と人里との交点を重点的に警戒区域として設定することができ、限られた防除資源の集中的活用に貢献します。


人間との境界領域=出没のホットスポット

山と農地、または集落の間に存在する「エッジ領域」は、クマの出没が集中しやすい地帯です。これは人間の生活空間と野生動物の生息空間が交錯する“接点”であり、果樹や畑の作物、残飯、ゴミ集積所など、クマにとっての食料源が存在しやすい場所でもあります。

特に農作物の収穫期(晩夏〜秋)には、餌資源が山中で不足することが多く、低地への移動が加速します。その結果、これらの境界領域で目撃が急増する傾向が見られ、クマと人間の衝突が発生しやすくなります。

また、この「境界領域」は農地や住宅地の土地利用データと組み合わせてGIS上で把握することが可能です。たとえば衛星画像やオープンな地理空間データと重ね合わせることで、クマが接近しやすい農村集落を特定し、優先的な対策地域として指定する根拠にもなり得ます。


分布のクラスターと空白域:なぜそこに?

GIS上の分布を俯瞰すると、秋田市の山間部、横手盆地西部、北秋田市〜能代市にかけては目撃が集中的に発生している一方、日本海沿岸部や都市部ではほとんど報告が見られません。

これは単に森林の有無だけでなく、地形的な連続性や谷筋の発達、人口密度の差など、複数の因子が影響していると考えられます。たとえば海岸部の都市周辺は開発が進み、森林が分断されているため、クマの移動や出没が抑制されやすいのです。

また、空白域が本当に「出没していない」のか、それとも「目撃されていない/報告されていない」だけなのかという点も重要です。通報率の地域差を考慮し、住民の通報体制や意識の違いも検証することが求められます。


データ活用の展望:予測と防除の精度向上へ

このように、地理的要因と出没傾向を重ね合わせることで、出没リスクの高い地域=重点監視エリアの特定が可能になります。自治体によっては、地形データや土地利用データを組み合わせた**「出没リスクマップ」の作成に取り組んでおり、今後はAIによる予測モデルとの統合**も期待されています。

例えば、近年では「過去の出没データ」「地形・植生」「農作物の種類」などを統合したリスク予測モデルの構築が始まっており、秋田県や長野県などではモデル結果をもとにした広報・警戒アラートの配信も行われつつあります。

また、時間帯別の出没傾向(例:早朝・夕方)や、月別出没数の推移といった動態データを組み合わせることで、より高精度な警戒体制を構築することも可能です。こうした取り組みは、人と野生動物との「共存」に向けた新たな地理情報活用の可能性を示しています。


まとめ:分布には意味がある

GISを用いた分析により、ツキノワグマの出現傾向には明確な規則性があることが分かりました。山地・谷筋・集落の境界という、地形的な“意味”のある場所に目撃が集中している点は、偶然ではなく生態行動と地理条件の一致によるものです。

今後、こうした知見を自治体・住民・研究機関が共有し、出没防止や情報共有体制の整備に活かすことで、クマとの適切な距離感を保ちつつ安全に共存する未来が描けるはずです。

人が野生動物のテリトリーを理解し、接点を可視化する手段としてのGIS。その活用は、今後ますます重要性を増していくでしょう。

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