1.点の集まりに“意味”を与えるということ
秋田県内で相次ぐ熊の出没。ニュース映像では、地図上に赤い点がいくつも並び、まるでランダムなように見えます。しかし、研究者たちはその「点の集まり」から“熊の行動パターン”を読み解いています。
これを可能にするのが**クラスタリング(Cluster Analysis)**という手法です。専門用語のように聞こえますが、要するに「似たような場所をひとまとまりにする」技術のこと。料理の材料をジャンルごとに分けるようなもので、「山沿いの出没」「果樹園周辺の出没」「集落近くの出没」といったグループが自然に浮かび上がります。
その中でも、熊のように行動が“自然環境とともに変化する動物”には、**DBSCAN(ディービースキャン)**という方法が特に適しています。
これは「密度」に注目してグループを見つける手法で、出没が密集するエリアを自動的にひとまとまりとして検出し、単発的な出没(いわゆる“迷い熊”)は除外してくれるのです。

2.なぜ「密度ベース」なのか:熊の行動のカタチ
熊の行動を地図上に点で表すと、不思議な特徴が見えてきます。
たとえば、山の尾根沿いに点が連なったり、川沿いに細長く点が分布していたり。
これは、熊が谷を伝って餌を探したり、ドングリの豊富な森をめぐって季節移動している証拠です。
こうした“細長い”“歪んだ”“不規則な”分布は、従来の k-means(ケイミーンズ) という手法では上手く表現できません。
k-means は、あらかじめ「クラスタはいくつに分ける」と決め、丸い形のグループを作ろうとします。しかし熊の行動は丸くはありません。谷沿いや山稜など、地形に沿った帯状の分布を示します。
これに対して DBSCAN は「密度の高い部分だけを自然にグループ化」するため、熊の行動の現実に近い形を再現できます。
3.一匹だけの熊を“ノイズ”として扱う意味
出没情報の中には、「1回だけ」「1頭だけ」という報告も少なくありません。
こうした単発的な出没は、対策上は重要ですが、行動パターンを示すものではありません。
DBSCAN は、一定以上の密度が確認できない点を自動的に「ノイズ(外れ値)」とみなし、除外します。
この処理によって、“本当に危険な地域”だけを浮かび上がらせることができます。
これは行政や研究者にとって非常に重要です。
「危険地帯を正確に把握する」ためには、単発の出没に惑わされず、行動の“傾向”を見る必要があるのです。
DBSCAN は、まさにその目的にぴったり合った手法といえます。
4.クラスタは“自動で”決まる
クラスタリングというと、何か難しそうな設定を想像するかもしれませんが、DBSCANはシンプルです。
設定するのは2つだけ——「どのくらい近ければ同じグループにするか(eps)」と「最低何件集まればグループとみなすか(minpoints)」。
この2つを決めるだけで、クラスタの数は自動的に決まります。
熊の行動範囲は季節ごとに変化するため、この“柔軟性”は極めて重要です。
実際、秋田県北部の熊出没データを解析したところ、
- 米代川流域(北秋田市付近・緯度40.0086、経度140.3679)では秋季の密集クラスタ
- 能代市南部(緯度40.1744、経度140.0381)では果樹園地帯を中心とした出没クラスタ
- 鷹巣〜上小阿仁の山間部(緯度39.9465、経度140.2375)では移動経路型クラスタ
が明瞭に浮かび上がりました。
5.ConvexHullで“面”として危険域を把握する
点の集まりを線で囲んで“面”にする技術を**ConvexHull(コンベックスハル)**といいます。
熊の出没クラスタをConvexHullで囲むと、地図上に「危険ゾーン」が視覚的に現れます。
行政が「この範囲を重点警戒」と指定したり、パトロールルートを決める際に活用できます。
たとえば、米代川流域のクラスタをConvexHullで囲むと、山麓から里地への“扇形の危険帯”が描かれます。
これは実際に人との遭遇が多い場所とも一致しており、科学的にも現場感覚にも合致する分析結果です。
6.熊の生態とクラスタ分布の一致
DBSCANで抽出されたクラスタの形は、熊の行動季節と驚くほど一致します。
季節主なクラスタ分布行動・餌資源春谷沿い・沢筋フキ・芽吹き夏山地〜果樹園ベリー・昆虫秋山麓・里山ドングリ・柿・栗
つまり、クラスタの“密度”は熊の“食欲のベクトル”を可視化しているのです。
点の分布が行動の地図に、そして地図が安全対策の基盤になります。
7.素人にもできる「クラスタの見方」
専門家でなくても、クラスタマップを読むコツはあります。
- 点が密集している=その周辺は「餌」や「水場」が豊富
- 細長い形=熊の移動経路(谷・沢・林道)
- 大きな面=季節的な“集中行動域”
DBSCANで生成された地図は、単なる学術データではなく、「熊がどこに、なぜ現れるか」を直感的に理解できるツールです。
GISソフト(QGISなど)を使えば、誰でも地図上でこの分析を試すことができます。
8.まとめ:データが“熊との共存”を導く
クラスター分けの目的は、熊を排除することではありません。
「どこで、なぜ出るのか」を知ることで、被害を未然に防ぐ——それがデータ分析の役割です。
DBSCAN+ConvexHullというシンプルな組み合わせが、熊の行動と人間の生活圏の“接点”を正確に描き出しています。
これからの防災や共存のためには、行政・研究者・市民が同じ地図を見て、同じ現実を共有することが重要です。
そして、その“現実”を見える化する力こそが、クラスタリングの最大の価値なのです。
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